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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)708号 判決 1964年2月20日

上告人

松本博

上告人

松本極人

右両名訴訟代理人弁護士

村田左文

被上告人

日伯商事株式会社

右代表者代表取締役

宮本浩

右訴訟代理人弁護士

宮川仁

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人村田左文の上告理由第一点について。(省略)

同第二点について。

所論は、本件代物弁済予約完結の意思表示が本件訴状の送達をもつてなされた旨の原審の判断を非難する。なるほど、被上告人は本件訴状で停止条件付代物弁済契約を主張しているので、予約完結の意思表示についてふれるところはないが、右訴状には代物弁済の効力を生じたことを前提とする主張が記載されている以上、その後の弁論において被上告人が代物弁済の予約の主張を追加し、かつその予約完結権の行使が訴状の送達をもつてなされた旨主張したときは(第一審判決理由八参照)、右訴状送達の時に予約完結権の行使があつたものと認めても、差し支えがなない。原判決には所論のような違法はなく、所論は、独自の見解であつて、採用できない。

同 第三点について。

所論は、本件貸金債務については内入弁済があり、代物弁済予約完結の意思表示のあつたという昭和三二年七月二三日現在においては、本件貸金の元本額は当初の金一五〇万円を遙かに下廻るものであつたから、予約完結権はその当時既に消滅していたと主張する。ところで、上告人松本博が本件金一五〇万円の外に昭和三〇年四月頃被上告人から金五〇万円を無担保で借り受け、同額の金員を被上告人に支払つているとの原審で主張判断のない事実を前提として、本件貸金債務に同額の弁済があつたことを主張する所論は、採用の限りでなく、また被上告人が受領したことを自認している昭和三〇年四月九日までの八カ月間の利息の利息制限法超過部分を、仮りに上告人ら主張のとおり、元金に充当してみても、一五〇万円の元金が僅かに一〇万円足らずしか減少しないものであることは計算上明白なところである。代物弁済の予約において、それによつて担保さるべき債権額が右の程度に減少したからといつて(原判決は、仮りに一五万円程度減少してもと判示しているが)、特別の事情のない限り、代物弁済予約完結権は消滅することはないとした原審の判断は正当である。所論は、原審において主張判断のない事実を前提とし、或は独自の見解に立つて、原判決を非難するものであつて、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 斎藤朔郎 裁判官 入江俊郎 長部謹吾)

(上告理由省略)

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